「食する映画たち」4 嗜好571号(2004/5月)掲載
映画が描いた食には、もっと毒のあるもうのある。ピーター・グリーナウェイ監督の『コックと泥棒、その妻と愛人』のように、人の肉体そのものが食卓に上
るようなグロテスクなものもあった。ルイス・ブニュエル監督の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』のように、トラブルつづきでいつまでたっても食にありつけ
ない金持ちたちをコメディタッチで描くものもある。ブニュエルはこの映画で、晩餐の椅子をみんな便器にかえていた。シュールリアリストの本領発揮である。
けれど笑えても、食欲をそそるような作品では、残念ながらなかった。
もう一つ、記憶に残る強烈な食のシーンがある。『暴力脱獄』で囚人役のポール・ニューマンが、仲間同士の賭で茹卵を50個食べる場面だ。もうテーブルに
かしこまっていては口に入らなくなり、まず歩きながら食べる、最後にはベッドにあおむけになりむりやり口に押しこみ、とうとう50個を平らげてしまうの
だ。そういうとんでもない食い方にもかかわらず、なぜか子どものぼくは、無性にゆで卵が食べたくなったのだった。
卵といえばソフィア・ローレン主演の『ひまわり』で、大きな器に卵を30個ばかり割って入れてかきまわすシーンがあった。昭和30年生まれのぼくは、卵
が高級品であるというイメージがぬぐいされず、そのシーンがとても贅沢に感じられたものだ。
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