「アンブローズ・ビアス」 (2006.11.27) WEB限定掲載
DVDレコーダーに留守録したままのポール・オースター監督の「ルル・オン・ザ・ブリッジ」をやっと見た。
死の直前にみた夢の話。
このパターンは案外多くて、「ジェイコブ・ラダー」もその一つ。
エイドリアン・ラインの監督で、まださして有名ではなかったティム・ロビンスと美しい女優エリザベス・ペーニャが出ている。
ジェイコブ=ヤコブ、「ヤコブのはしご」、とは聖書の天使が下りてくるはしごのこと。
ベトナムで死ぬ直前に見た夢で終始する。
いずれも観客には最後までそれがわからないので、どんでん返し的なラストとなる。
この時期になるとかならずテレビでもやるキャプラの「素晴らしき哉、人生!」も、自殺しようとした男に天使が舞いおりて時間を止めるという点では、この系
譜にはいる映画で、ラストが「これは夢だった」のオチではラングの「飾り窓の女」もまた同系列か。
おそらく原典の一つは「悪魔の辞典」のアンブローズ・ビアスが書いた短編「アウル・クリーク橋の一事件」だろう。
アンブローズ・ビアスは芥川龍之介がもっとも影響を受けた作家だといわれている。
一世紀以上前のこの作品は、処刑される兵士がその直前に見た夢の話だ。
コンマ秒単位の時間が無限に拡張されて一つの物語になるという構図は魅力的で、写真が発明され、映画へとつながっていく時代だからこそ、そんな発想が生ま
れたのだろう。
写真も映画も時間を切りとり、モノに定着圧縮し、そして任意に取りだすことで、時間は無限に拡張される。
死の直前にみる夢という宗教的に感じられる想念も、じつは現代の記録技術によって発生したものかもしれない。
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