「クリーンルームの「蟹工船」」 (2008.6.26) WEB限定掲載
小林多喜二の「蟹工船」が急に注目を集めている。
蟹工船に乗り組んだ労働者たちが過酷な労働に耐えかね反乱を起こすというものだが、最後には助けにきたと思った「天皇の軍隊」に鎮圧されてしまうという
話である。
これを現代の派遣労働に重ね合わせて、「蟹工船」というプロレタリア文学を再評価するというスタイルで再評価が起きているようだ。
しかし、現代の派遣労働現場と蟹工船とには相違点がある。
蟹工船労働者は労働の中で団結心を燃えたぎらせていくが、現代の現場はそれを不可能とするほど分断が浸透している。
派遣、契約、正社員という分断は反乱の力学を拡散させている。
さらに派遣は流動化することで、一定の現場での結束を不可能にしている。
それ以上に、労働の質の変化が大きい。以前は心身の疲労困憊が搾取の構図をより鮮明化したが、現在の構図はストレスが身体を経由せず、直接神経に到達す
るかのようだ。
よって個は身体性という共同化のきっかけを失い、ひたすら分断されつづける。
こういう主張には、いや実際の現場は、体そのものがきついのだ、という批判もありそうだ。
しかし、蟹工船のような労働の均一性、持続性はなく、派遣労働そのものが、いくつにも分節化され、全体をさらに見えにくくしているという構図は残る。
青白い灯りに満ちたクリーンルームの蟹工船、のような光景を描く小説が書かれるかもしれない。
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