« つり革のあるタクシー | トップページ | 姜尚中さん »

2008年10月25日 (土)

「振り込め詐欺が起こる日本的事情」 (2008.10.25) WEB限定掲載、書き下ろし

 なぜ振り込め詐欺があとをたたないのか? それほど手口が巧妙なのか? 社会は振り込め詐欺の実態、そうしたものが存在するということを高齢者に知らし めれば、一気に被害は減ると考えていたが、実際はそうではなかった。
 分かっていてもだまされるのである。
 背景にはきわめて日本的な人間関係、親子関係が存在する。ヒントになるのは、振り込め詐欺の被害者がほぼ親であり、子や孫ではないということ。
 子が親を装う者にだまされるという事例はきいたことがない。理由はこうした詐欺を考案し実行するのが若者であり、そもそも親の世代ではないからだという のは、その理由にあたらない。詐欺の常習者には中高年が多く、彼らがこうした手法に目をつけないわけではないのだ。
 先ほど検挙されたキングとよばれる元締めのマンションからは、数億円の現金が発見されたという。振り込め詐欺は数ある詐欺のなかでもたいへん「おいし い」部類に入る。わざわざダミーの会社を立ち上げ、会員を募集したり、被害者に顔をさらしたりしなくてすむ。資金も少額で、顔という証拠も残りにくい。詐 欺の中でもきわめてやりやすい犯罪である。それでもベテラン詐欺師たちが目を付けないのは、親が子をだまして、金を振り込ませるのがきわめてむずかしいか らである。若い世代は懸命でだまされないからか?
 違う。
 たとえば、これが欧米で起こるか? ということを考えればいい。起こらない。親子関係が異なるからだ。
 欧米では子は二〇歳にもなると、自立するものだという認識が根強い。たいていは家を出て行く。アメリカ映画などでは、子の結婚にも親が立ち会わず「お お、おまえ、いつ結婚したのか?」などというセリフが出てくる。もちろんアッパーミドル以上の家庭では、こうしたことは少ないかもしれないが、しかしこれ が彼らの親子間の根底にある。
 つまり自立した子は個であって、絆の強い他者にしかすぎなくなる。「子」から「個」への転換が起こるのだ。これが日本的家族にはない。だから、そこをつ かれると弱いのである。いつまでもわが子なのだから、困っているとなるとおたおたする。で、だまされる。
 大阪では子や孫を語る振り込め詐欺の被害が少ないというのは、大阪の親子観が非日本的なのかもしれず、社会学的な研究がなされるとおもしろいのだが。
 しかし、この日本的親子関係、だから悪い、変えなければならない、というのではない。ただ、この種の詐欺が横行する土壌となっているというにすぎない。

« つり革のあるタクシー | トップページ | 姜尚中さん »

ESSAY」カテゴリの記事

著作本のご案内

前作『スマホ断食』から5年。大幅加筆改稿して、新しい時代を読み解く。
「スマホ断食 コロナ禍のスマホの功罪」
(潮新書)
2021年7月20日発売
定価(本体750円+税)
魚沼の棚田で足掛け2年にわたり米作りした汗と涙の記録。田んぼにまつわる美しい(!)写真も 盛りだくさん。通称「#田んぼ死」
「人として生まれたからには、一度は田植えをしてから死のうと決めていました。」
(プレジデント社)
2020年11月27日発売
定価(本体1600円+税)
「ネットで『つながること』の耐えられない軽さ」を改訂し、第5章を追加。
山根基世氏の解説。

「つながらない勇気」
(文春文庫)
2019年12月5日発売
定価(本体640円+税)
生きがいのある老後に必要なものとは
「暴走老人!」に続いて老年の価値を問う

「この先をどう生きるか」
(文藝春秋)
2019年1月12日発売
定価(本体1,200円+税)
讀賣新聞夕刊に連載された人気コラム
「スパイス」から選び抜かれたエッセイを
加筆改稿、書き下ろしを加えた

「あなたがスマホを見ているとき
スマホもあなたを見ている」

(プレジデント社)
2017年12月13日発売
定価(本体1,300円+税)
2006年に刊行されて、
「プレジデント・ファミリー」など
新しい教育雑誌発刊の火付け役になった本の文庫化

「隠れた日本の優秀校」
(小学館文庫 プレジデントセレクト)
2017年5月14日発売
定価(本体680円+税)
2011年に刊行され
ネット等で評判になった文章読本
これを大幅改稿した文庫本

「文は一行目から書かなくていい」
(小学館文庫 プレジデントセレクト)
2017年2月7日発売
定価(本体650円+税)
もし子供部屋がなかったら、
その子はどこで自分を見つめ、
自力で考え、成長する力を得られるのか?
子供と個室と想像力への考察

「なぜ、『子供部屋』をつくるのか」
(廣済堂出版)
2017年2月1日発売
定価(本体1,500円+税)
何かあるとすぐにネットで検索。
止まらないネットサーフィンで、気づくと1時間。
LINEの既読が気になって仕方がない・・・・・・
ネット漬けの日常から逃走し、「自分」を取り戻す

「スマホ断食」
(潮出版社)
2016年7月5日発売
定価(本体1,200円+税)
ネットは人を幸福にするのか?
「ネットことば」が「書きことば」を追いはらい、思考の根本が溶けていく。
それは500年に一度の大転換

「ネットで『つながる』ことの耐えられない軽さ」
(文藝春秋)
2014年1月30日発売
定価(本体1,100円+税)
エリエスのセミナーに5年以上通っているベストセラー作家が、「過去出席したセミナーの中でベスト2に入る」と絶賛した、伝説のセミナー収録CD
CD2枚組
「時代を切りとる文章講座」
(エリエス・ブック・コンサルティング)
2011年10月13日発売
定価10,500円(税込)
「骨の記憶」
(集英社)
2011年6月29日発売
定価1575円(税込)
「文は一行目から書かなくていい」
(プレジデント社)
2011年5月30日発売
定価1300円(税込)
文春文庫「暴走老人!」
(文藝春秋)
2009年12月10日発売
定価533円(税込)
集英社文庫「脳の力こぶ」
(集英社)
2009年3月18日発売
定価500円(税込)
朝日新書「検索バカ」
(朝日新聞出版)
2008年10月10日発売
定価777円(税込)
「なぜ、その子供は
腕のない絵を描いたか」

(祥伝社黄金文庫)
2008年7月24日発売
定価580円(税込)
「暴走老人!」
(文藝春秋)
2007年8月30日発売
定価1050円(税込)
科学と文学による新「学問のすすめ」
脳の力こぶ

(集英社)
2006年5月26日発売
定価1575円(1500円+消費税)
絵本「私を忘れないで」
(インデックス・コミュニケーションズ)
2006年5月25日発売
定価1260円(税込)

このサイトに関する、ご意見・お問い合わせはinfo@fujiwara-t.netまでご連絡下さい。
Copyright (c)2010 FUJIWARA Tomomi All right reserved.
掲載中の文章・写真の無断転載を禁じます。
Supported by TOSHINET.CO.LTD