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2009年5月19日 (火)

「高校崩壊とロスジェネ」 (2009.5.19)※西日本新聞寄稿書評を加筆改稿したものです。

書評
『失われた場を探して/ロストジェネレーションの社会学』
(メアリー・C・プリントン著)

 社会がどこかで大きく変わってしまった。しかもとめどもなく悪いほうへと転がっている。そのことに、多くの人が驚き嘆いている。
 景気だけの話ではない。戦後長らく安定してきた、人が生きる環境そのものが底から揺らいでいるのだ。ことに働く場をとりまく変化は激しい。一九六〇年代 から八〇年代までつづいた「三月卒業、四月から正規雇用の社会人」という構図は、あっという間に過去のものとなってしまったようだ。
 知日派のアメリカ人社会学者である著者は、日本の高卒者における就職状況に焦点を当てて調査分析している。そこには「新卒業生の最大三〇~四〇%が就職 もせず進学もしない(そして浪人にもならない)という高校の実態」があった。
 これまで多くの論者は、若者の意識や意欲低下に原因を還元してきた。つまり彼らの甘えや、やる気のなさがニートやフリーターをつくっているという論法で ある。しかしそれが根拠のないものであり、原因ではなくむしろ結果にしかすぎないということをこの本は証明している。
 しかし、この実態は知られていない。今回のインフルエンザ・パニック(メディアが情報商品化でつくりだした部分が大きい)でも、あるテレビコメンテー ターは、奈良県の全高校生のうち三〇〇〇人が欠席しているという数字に驚き、インフルエンザの脅威をはやし立てていた。しかし、三〇〇〇人の欠席など少し も多くはない。これが現在のふつうなのだ。
 たとえば進学率の低い普通高校は中途退学者がきわめて多い。なぜか? 卒業しても正規雇用への可能性が低いからである。在学中にバイトしていた職種に卒 業してもそのまま就くのであれば、なにもわざわざ卒業する必要はなくなる。一方、日本の企業は多くのバイト、パートで成り立っているにもかかわらず、正規 雇用にあたっては、在学中のそうした経験をまったく評価しないという不可思議な姿勢を堅持している。そこが欧米とは異質である。
 さらに日本は人より「場」を重視する特殊な社会だ。「場」=「職場」への信頼が「個」への信頼を凌駕する。しかし若い世代には、まずもって渡っていくべ きその「場」が消滅し始めているのだ。
 そこで彼らに求められるのは「個」の自立である。個としてのスキル、能力を要求される。先行する世代が要求されなかったものを、今の若者はいきなり求め られる。社会は若者にそれを育てる機会を与えず、ところてん式に放り出している。「一〇〇年に一度の経済危機」などとぶちあげる前に、壊れつつある足下に も目を向けるべきだ。
 丹念な調査と分析力で、雇用問題を超えて、日本社会に出現した大問題を摘出した秀作である。

※西日本新聞寄稿書評を加筆改稿したものです。

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