「今年一年(3)ケータイと犯罪」 (2009.12.25) WEB限定掲載、書き下ろし
英国人女性殺害を疑われている市橋容疑者は、あの年代ながら、ケータイと無縁な生活を送っていたらしい。逃亡中だけでなく、それ以前もどうやら使っていなかったという。
ケータイ的なかかわりではなく、一対一の直接的な関係、リアルな関わりに強い関心があったのだろう。
今時の青年にしては珍しい感覚。ケータイ的な人間関係からはずれたところで、そのズレのなかでこの犯罪が発生したということになる。今日のスタンダードな関係の連鎖から、彼はそもそも「降りていた」可能性すらある。
一方で、秋葉原無差別殺人事件では、犯人は犯行直前までケータイでだれかとかかわろうとしていた。
しかし、反応もなく、凶行におよぶ。あのとき、だれかのレスポンスがあれば、起こらなかった可能性もある。
ケータイというと、舞鶴女子高生殺人事件で、被害者が真夜中にケータイで交信しながら人通りの途絶えた所を歩き回っていたという情報が記憶に残っている。深夜にひとりで外出するという不安を、ケータイネットワークが薄れさせていたのだと思う。
工事現場の赤色灯を写メールで送ったり、友人と話したりできるというネットワークが、現実の、そこにある闇と孤立を忘れさせたのか。
ケータイしながら話しているとき、心の居場所は、今いるそこ、ではなく、ネットのむこうにある。
この新しい関係の状況が、さまざまな事態を誘発している。そもそも被害者は、ケータイがなければ、あのとき外出しただろうか。
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