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2010年4月 3日 (土)

「浅田真央は何に負けたか? あるいは浅田真央はレボリューションだ」(2)(2010.4.3)WEB限定掲載、書き下ろし

利権の巣窟はたまた温床
 ともかくアマチュアリズムは二〇世紀の後半からどんどん崩れていく。現在ではオリンピックは事実上、プロのみが参加できるスポーツの祭典といってもいいものになった。これは自然の成り行きです。だって強くなるには毎日トレーニングしなくてはね。庶民がそうするにはプロ化するしかない。
 そして国際化したスポーツは巨大化していく。と同時に、そこに巣くう方々(選手ではありません)の利権が発生する(これが浅田さんが負けた源にあるものですが)。
 利権が発生すると、こうした既存の権利と権威をえたものと、そうでない新興勢力との権力闘争がかならず発生する。国際スポーツをコントロールする組織内というのは、この権力闘争の歴史そのものなのだ、な。
 フィギュアスケートも同じ。国際連盟の内部はもちろん知らないが(多くのジャーナリズムもそうだと思うが)、まちがいなく、つねに椅子をめぐる権力闘争が行われているはずだ。それがこういう組織の常である。内側は汚ねーぞ、きっと。
 かつて日本の連盟がもの凄く汚くて、とうとうね、刑事事件なことに……なったように。

タラソアのしたたかさ
 そしていま、世界のフィギュアスケートが新しい段階を迎えつつある。
 おそらくその発端は、一九九二年のアルベールビル大会でクリスティー・ヤマグチが金メダルをとったときではないかと思う。
 彼女はいうまでもなくアメリカ国籍ながら、東洋に人種的アイデンティティをもっている。いわゆる日系人である。彼女の国籍がアメリカだったことがフィギュアスケート界の衝撃を緩和した。
 しかしその後、ミッシェル・クワン、伊藤みどりなど、ぞくぞくと東洋系の才能が開花していく。
 そして現在は、ほぼ東洋系が上位を固めるという構図ができつつある。
 これほど東洋系が多いのは、どのように推測しても、この競技がモンゴロイド、東洋人にむいているというほかないだろう。
 よって、いずれはさまざまな東洋系の選手によって、決勝のリンクが占拠されることになる。その段階への過渡期が、いま終わりつつあるのだ。
 それを恐れていたのが、国際連盟の中心をしめる欧米勢である。
 しかしながら、東洋系の身体的な特質、重心が白人より低く、腰回りが細いという特質が、ことにジャンプの回転に有利に働くのはあきらか。
 そのあたりをいち早く察知したのは、タチアナ・タラソアさんじゃないのかなあ。荒川静香さん、浅田さん、そして朝鮮系のデニス・テンさん。いいところをおさえている。
 このようにさまざまな身体的特徴から、東洋系が人種的にこの競技には有利にもかかわらず、既得権益と権力の椅子を守るために、欧米系が支配的な国際連盟は、それを阻止しようと必死なわけだ。何を見てきたようなことを、と思うかもしれないが、巨大化した、利権が絡む組織とは、まったくそういうものなのですよ。

スポーツは人種の特性できまる
 さてそこで、今回のキム・ヨナさんは勝って、浅田さんはなぜ負けたか。
 これは浅田さんのほうがより欧米系、白色人種的な秩序に、圧倒的に脅威だったからにほかならない。
 難度の高いジャンプができる選手をもっとも高く評価するとどうなるか。難度が高く、それにともなって得点も高いとなると、白人には絶対的に不利になるのは道理だ。
 よってこういう力学が働いたのだ。難度の高いジャンプの点はなるべく低く抑えて、表現力や完成度に重点を移す。これで将来に渡って、欧米系の白人選手も活躍の余地を残しておく。
 これがざっと今回のオリンピックでとられた連盟の戦略だったろう。もちろん日本人役員などの抵抗はあっただろうが(たぶん、いや、もしかしたら、いや、なかったか)。皮肉にも唯一抵抗したのが、白人のプルシェンコ氏だった。彼が高橋選手に記者会見で「同志」と呼びかけたとき、「ハイ、同志」と答えて欲しかったなあ。高橋さん。
 ともかく連盟の戦略を読みとり、忠実に鍛錬したのが、キム選手だったわけです。いわば作戦勝ちともいえる。
 国際連盟にとってはどちらもモンゴロイド。同じなのだが、キムさん的な方法論ならまだ白人も戦える余地がある、という論理です。
 余談だが、人種とスポーツは差別から論じられることはあっても、身体的特徴から論じられることはあまりない。タブーなわけですね。
 たとえば解剖学的にはある人種は陸上競技の多くには有利だが、水泳には骨が重かったりして不利だということは明らかになっている。たんに競技環境の差ではない。

浅田真央の美しい敗北
 ではこれからフィギュアスケートはどうなるか? いずれは東洋系に表彰台をほとんどすべて明け渡しつづけるという日が来る。それがいつかはわからない。米国籍の長洲選手などが実力を付けてくるときかもしれない。なんたってアメリカ人ですから。ヤマグチさん、クワンさんのように。
 さらにネットの影響もある。いま動画サイトで、浅田さんとキムさんの演技を同時並行的に流して検証するようなことが、世界で楽しまれていたりする。こうなると、試合は終わったから、とすまされないわけです。画像の力があります。
 で、文字通り東洋全盛のころに、そこで問題となるのは、低年齢の選手の扱いである。十代半ばがピークという選手が出てくるだろう。女子体操のような状態になるかもしれない。たぶんね。
 チェコのチャフラフスカさんの時代からコマネチさんの時代になったように、あのふくよかなジャネット・リンさんから、筋肉質のカタリーナ・ビットさんの時代になったように(いずれにしても、フルッ!)
 しかし現状はまだ連盟の力が強い。敵は手強いぞ。それを知りつつ、浅田さんも、タラソアさんも闘いを挑んだ。これはもしかすると負けることが分かっていた闘いだったかも。いずれ勝つという確信の元に挑んだ闘いだったかも、といまにして思う。
 いずれにしても、いま浅田さんのためにとるべき戦略は、日本の連盟が韓国、中国、長洲選手の米国、プルシェンコさんのロシア、デニス・テンさんのカザフスタンなどと手を携えて、難度高いジャンプの高点数化に運動するしかない。そのような大局にたった戦略が必要なのだが、はたして。
 ぼくが日本フィギュアスケートの戦略をあつく語ってどうする! ああ、肩こり。

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